松浦亜弥『ファーストKISS』(ASIN:B00005TSLQ)

ファーストKISS

 2001年の年の瀬も押し迫った頃。行きつけのCDショップを訪れた僕は、店内放送で流れていた初聴の曲に耳を奪われました。鬼気迫るほどパワフルにして切ない歌声。
 「これ、なかなか良いな。誰が唄ってるんだろう?」
 その曲こそが、松浦亜弥の1stアルバムの中盤を飾る名曲『笑顔に涙 〜THANK YOU! DEAR MY FRIENDS〜』でした。
 ハロー! プロジェクトに所属するアーティストの多くは一つの楽曲を複数名のシンガーが回して唄うことにより様々な切り口を提示していくスタイルを基本としています。モーニング然りタンポポ然り、数あるシャッフルユニットもまた然り。されど松浦亜弥はソロ・シンガー。同じ手は使えません。にも関わらずこのアルバムが『セカンド モーニング』や『TANPOPO 1』と比肩し得る傑作と成り得たのは、ひとえに“アイドル・サイボーグ”の異名をとる松浦亜弥の多彩な表現力、ヴォーカル力が他の多人数ユニットと同等あるいはそれ以上のレベルにあったからだと思います。確かに楽曲のクオリティーは高いけれどトラックに新鮮味は無い。そんな奇を衒わない音作りで最後まで飽きさせない。ある意味彼女は、デビュー・アルバムにして既にハロー! プロジェクトの限界を超えていたのでした。
 そんな彼女も最近はやや手詰まり気味。自身で曲を書かない純シンガーは、楽曲提供者のパワーが落ちれば自ずと失速せざるを得ません。それでもなお彼女に対する期待値が下がらないのは、松浦亜弥がハロー! プロジェクトのメンバーとしては唯一人、セルフ・プロデュースの出来る娘だからでしょうか。
 この作品はつんく♂ワークス第1期の完成型だったのかも知れません。そしてまた新たなるステージへ。松浦亜弥がモーニングやWと並んで最も期待を抱かせてくれる存在であることに変わりはないのです。