タンポポ『TANPOPO 1』(ASIN:B00005G3O4)

TANPOPO 1

 ちょっと舌足らずで甘えた感じの声質ながらも強烈なファルセットを放つ極端に小柄な少女。いかにもロックかぶれな唄い癖の陰に人柄の良さを滲ませるやや年長の女性。そして、引きずるようなかすれ気味のヴォーカルに強固な意志を秘めた黒髪で長身の少女。
 これほど明瞭な記号を持ち、尚且つそれがヴォーカル・ユニットとしての機能にきちんと反映されているグループは珍しいのではないでしょうか。母体であるモーニングではグループの性格上達成し得ない“完璧なバランス”を体現したユニット。それが初代タンポポでした。彼女たちが収めた音楽的成功はモーニング本体、そして太陽とシスコムーンにも少なからず影響を与えたように思います。
 後にシングルカットされた『たんぽぽ』やデビュー作『ラストキッス』などのシングル曲、あるいは三者三様の個性が光るソロ曲も聴きものですが、このアルバムでしか聴くことのできない、そして初代タンポポの完璧なトライアングルでしか実現し得ない3つのオリジナル曲にこそ要注目。なかでも『ONE STEP』は、ジャジーサウンドと三位一体のヴォーカルとが相俟ってトリッキー&ワイルド、かつ若干のチャイルドポルノ臭が漂う怪作となっています。
 そしてアルバムのラストを飾る『ラストキッス(album version)』。ヴォーカルトラックはそのままにオケを北京愛楽楽団のストリングスに差し替えただけなのですが、これが凄い。飯田のヴォーカルのささくれ、そして石黒の棘が手に取るように伝わってくる、生々しくも聴き応え溢れる一品に仕上がっています。コーダに近い部分での矢口のフェイクも、その後すぐコーラスパートに着地しなければならないだけに一層スリリング。これはコーラスを生で唄うことのない現在のモーニングでは味わえない性質のスリルです。
 書けば書くほど懐古趣味に走らざるを得ないのですが、もう2度と戻ってこないからこそ、残された作品は丁寧に繰り返し味わいたい。そんな気分にさせてくれる数少ないアルバムの内の一つなのでした。