矢野顕子『峠のわが家』(ASIN:B00005FDZ1)

峠のわが家

 日本が世界に誇る怪物シンガー・ソングライター演奏家矢野顕子の代表作のひとつ。ジャジーでスウィートでポップでアヴァンギャルドで、その他諸々言葉を尽くしても表現し得ない彼女ならではのオリジナルな音楽世界がこの一枚に凝縮されています。
 人が矢野顕子に求めるものは様々であり、JAZZを期待する人は打ち込みに苦言を呈し、ポップスが好きな方はシュールな歌詞に不満を漏らす向きもあるようですが、この作品は矢野の全側面をバランス良く配置。あらゆるリスナーの期待に応えるものになっています。全9曲のうち3曲を占めるカヴァー作も絶好調。中でもオフコースのカヴァー『夏の終り』は、原曲に秘められたウェットなニュアンスを女性ならではの視点から唄い上げた傑作です。坂本龍一によるドラマティックなストリングス・アレンジも絶妙。
 JAZZがお好きな方はスティーヴ・ガッド/エディ・ゴメス/ベニー・ウォーレスとの共演による『一分間』やガッド/アンソニー・ジャクソンらとのスリリングなインタープレイが冴え渡る『そこのアイロンに告ぐ』を、ハートウォームなポップスがお好みの方は高橋幸宏大村憲司が参加した『David』や『Home Sweet Home』を、アヴァンギャルドを求める方は坂本龍一アレンジによる『おてちょ。(Drop me a Line)』をお楽しみください。そしてそんなカテゴリ分けに収まりきらない部分にこそ、彼女本来の魅力・天才性が秘められていると思うのです。