映画的な歌詞とサウンドを思いのままに操るシンガー・ソングライター、かしぶち哲郎。“映画的”という表現はいささか陳腐ですが、実際彼のようなスタイルを貫いているアーティストは日本では珍しいのではないでしょうか。これはムーンライダーズという稀有なバンドのドラマーを務めていることとも無関係ではないでしょう。バンドとして活動するときはストレンジな試みに荷担しているからこそ、ソロではロマンティシズムにこだわり抜くことができるのかも知れません。
1997年から2002年までのソロLIVEをピックアップしたこのアルバムには、残念ながら『リラのホテル』『彼女の時』リリース時に披露されたバンド形式での演奏は収録されていません。ここは純粋に、弾き語りプラスアルファの小編成によるかしぶちの歌世界を楽しむべきでしょう。
あらためて聴き返してみると意外と充実している『Fin』収録曲、ドノヴァンやセルジュ・ゲーンズブールのカヴァーなども聴き所ですが、やはり白眉は石川セリ提供曲のセルフ・カヴァー『マルチネ「雨燕」』、そして名曲中の名曲『バック・シート』でしょうか。突然炎のごとく燃え上がり、鬼火を見るまで終わることのない大人の恋愛。シンプルな編成だからこそドラマティックな歌詞とメロディーを堪能できるような気がします。
今回収録されなかった矢野顕子や大貫妙子、石川セリとの共演はDVD化を希望! まあ映像が残っていればの話なのですが。