『寿限無/山下洋輔の世界 VOL.2』

寿限無 VOL.2

 生まれて初めて購入したJAZZのアルバム。「いきなりフリーかよ!」って感じですが、かねてから山下エッセイの愛読者であり、当時TVやラジオで流れまくっていたフュージョンに若干辟易していた僕にとって、ユーモアと歌心に溢れる彼の音楽は何とも親しみ易く響いたのです。とはいえ山下・武田和命・国仲勝男・小山彰太によるVOL.1ではなくこのアルバムを選んだのは、渡辺香津美村上“ポンタ”秀一といった馴染みのあるミュージシャンが参加していたからなのですが。武田・国仲が登場する山下エッセイはまだ文庫化されていなかったため読んでなかったのですよ。未知の領域に踏込む上でなにより大切なのは親近感。
 さて、このアルバムについては語り出したら切りがないのですが、久々に聴き返して血が煮え滾っているので(笑)、1曲づつ触れていくことにします。6曲しか収録されてないしね。

M1『音楽乱土』(作曲:山下洋輔
山下洋輔(p)/向井滋春(tb)/川端民生(b)/ペッカー(perc)/村上“ポンタ”秀一(ds)
 のっけからトリッキーなテーマのインパクトで聴き手を惹きつける名曲。山下・渡辺貞夫・井野信義・日野元彦のカルテットによる演奏も聴いたことがあるのですが、フュージョンヒーロー・ナベサダがこの曲の奇天烈なテーマを吹いたことが未だに信じられません。ブォッ! ブォッ! と偉そうに吼えまくる(笑)向井のソロが最高。
M2『漂遊ニ長調』(作曲:山下洋輔
山下洋輔(p)/渡辺香津美(g)/川端民生(b)/ペッカー(perc
 一転して霞みのようなエコーの効いたウェットな曲調に。香津美のギターは汲めども尽きせぬフレーズの泉ですね。ポンタといいペッカーといい香津美といい、フリーでのレコーディングはほとんど初体験に近かったと思うのですが、みな素晴らしい演奏を聴かせてくれています。
M3『第一橋堡』(作曲:山下洋輔
山下洋輔(p)/清水靖晃(ts)/川端民生(eb)/トニー木庭(ds)
 楽曲の辻々を滑らかに極め尽くす清水のテナーもさることながら、どっしりと重いトニー木庭のドラムが凄い! 低域を強調したドラム・ソロは圧巻です。故・川端民生の太く粘るエレキ・ベースにも要注目。
M4『活動写真』(作曲:筒井康隆
山下洋輔(p)/中村誠一(ts)/川端民生(b)/村上“ポンタ”秀一(ds)/ペッカー(perc)/ストリングス・セクション
 筒井康隆のペンによる名曲を感動的なスローバラードで。ここでの誠一の素晴らしさは筆舌尽くし難く、ただ「聴いてみてください」としか言いようがないのです。泣ける。
M5『寿限無』(作曲:山下洋輔
山下洋輔(p)/坂田明(vo)/向井滋春(tb)/渡辺香津美(eg)/武田和命(ts)/川端民生(eb)/村上“ポンタ”秀一(ds)/ペッカー(perc
 満を持してサカタ登場! 落語の登場人物の名前に音程をつけて演奏するという発想からして既に狂っているのですが、坂田がいなければそのヴォーカル・ヴァージョンを録音することも叶わなかったでしょう。ハナモゲラスキャットと向井のボーンの掛け合いが素敵にスリリング!
M6『仙波山』(作曲:山下洋輔
山下洋輔(p)/中村誠一(ss)/武田和命(ts)/林英一(as)/石兼武美(bs)
 『寿限無』で火照った体を心地よくクールダウンしてくれる、これまた名曲。『あんたがたどこさ』のコミカルなリズム・パターンとサキソフォン・カルテットの美しいアンサンブルを組み合わせた二律背反の構成美。

 発売当時中学3年生だった僕は聴きたいレコードを片っ端から買えるほど裕福ではなく、さりとてYMO関係のように友人同士で回し聴きできるほどJAZZに関しては同好の士に恵まれていなかったため、1枚のアルバムをそれこそ擦り切れるまで聴きまくったものでした。受験生だったのにね。M1の向井のソロなどは完全に暗記してしまっているので、今でもCDを聴きながら知らず知らずのうちにユニゾンで口ずさんでいる始末。ちなみにレンタルレコードのシステムが定着する前夜、自宅の近隣には店舗がありませんでした。
 さてこのアルバム、どうやら現在は入手不可の模様です。ひょっとすると単品のCDとしては商品化されていないのかも知れません。『ピアニストを聴け!』(ASIN:B00000883C)という18枚組(!)のボックスセットに収録されているので、興味をお持ちの方はそちらを探してみてください。