NHKハイビジョン『天才画家 vs ミュージシャン』

 例によってTV観戦のため、放送された試合だけを放送順で。

 この番組の趣旨は「天才画家が描いた世界観をJAZZミュージシャンが即興演奏で表現! 素晴らしい演奏と素晴らしい名画をハイビジョンのならではの美しい映像でお茶の間にお届け!!」といったものだったようですが、中でも加古は“JAZZと現代音楽の境界線上の人材”としてキャスティングされたように思います。ならばもう少し冒険をしてもよかったのでは? 例えばプリペアード・ピアノを使うとか、あざとい手法ですが。むしろ即興演奏=JAZZという図式にとらわれず、上野耕治あたりを呼んでも面白かったのではないでしょうか。いや加古が奏でた音楽は素晴らしかったですよ。ただ彼の演奏した『黒い絵』が仮に「ピカソの『ゲルニカ』にインスパイアされたものです」と紹介されたならば、絵画に無知な僕はそれはそれで納得して聴いてしまったと思うのです。

 2 vs 1のハンディキャップ・マッチですが、本多はアルトとソプラノをオーヴァー・ダブしてこれに臨んでいました。即興演奏というルールにこだわるならばこれは二人のサキソフォニストで対応すべきだったでしょうね。2回目の演奏を録音する段階でどうしても曲の構成を意識してしまうと思うので。ぶっちゃけた話、清水靖晃との競演が聴きたかった。もちろん清水がゴッホ、本多がゴーギャン役でね。

  • モネ vs 渡部香津美

 いやーモネって素晴らしい画家ですねえ(無知蒙昧ぶりを露呈)。香津美はすっかり指が動かなくなっていてちょっとがっかりしました。ミス・タッチが多い。同じ生ギターでも例えば宮野弘紀あたりにやらせた方が良かったかも知れません。個人的には香津美の盟友・井野信義を推薦。ベーシストだけどね。香津美と井野のデュオ(いわゆる“マウンテン”)でも良かったかも。

 今回一番ベタな企画。もっとも山下の名前がなければこの番組、たぶん僕も見てないですけどね。4曲演奏したうち前半2曲はサキソフォニスト・平野公崇との共演。ここで初めてこの番組のルールが必ずしも“完全即興演奏”にこだわっていないことに気付きました。なぜなら1曲目に演奏されたのがかの名曲『ピカソ』だったからです。「俺は落語キャラの柳の下の2匹目かよ!」ってピカソのツッコミがあの世から聞こえてきそうなあの曲。いや良い演奏でしたけどね。山下も齢相応に腕が落ちているとは思うのだけども、彼にしか描き得ない世界がそこにあるならばリスナーとしては平伏すより仕方ありません。やっぱり僕は山下の音楽が好きなんだな、と再認識。

 色々書きましたが良い番組だったと思います。もし次回があるならぜひ清水を、井野を、森山威男を、沢村満を、向井滋春を。そしてなにより、山下の対戦相手としてエッシャーを!