鈴木博文『bonyari bonyari』(ASIN:B0000DJWSB)

bonyari bonyari

 実を言うと鈴木博文のソロワークを本格的に聴いたのは12年振りくらいなのですが、もはや“シンガー・ソングライター”とか“ベーシストのソロ・アルバム”とかいった括りでは語り切れない次元に達していることに驚嘆しました。暴言を承知で言えば、これがムーンライダーズの新作だといっても良いくらいの出来。機材の進歩とも無関係ではないでしょうが、宅録臭を微塵も感じさせないダイナミックな演奏と手の込んだ音作りはワンマン・レコーディングの域を遥かに超えています。もちろんクライマックスがバンド形式で録音された『馬鹿どもの夜』にあるのは否定しませんが、この作品の本当の凄さは「それでもあくまでプライベート・アルバムである」ことだと思うのです。

ある朝 早く こどもに わたしは誰だと
だからわたしは ある朝の男だと 言った
そして空を指して そして空を指して 浮いた

『誰でもない男』

 平穏な日常にふと陰を落とす無常感。そんな鈴木博文独自の世界が、50歳の誕生日を目前にしてますます研ぎ澄まされていることに喜びを禁じえません。必聴。