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Damn! moonriders

 もし「ムーンライダーズのどの辺が好きなのか?」と問われたなら酔いどれヲタの発酵脳から漏れ出る戯言にそれこそ朝までお付き合いいただく必要性が生じるのですが、「ムーンライダーズは他のバンドとどこが違うのか?」という問い掛けに対しては2秒で答えることができます。そしてそれが恐らく、中学生の頃から20年来、僕が彼らを追い続けてきた理由の一つなのでしょう。

 メンバー全員“ちょっとおかしな人”である。

 モンティ・パイソン然り。クレイジー・キャッツもまた然り。世間一般とは常に物事の捉え方がずれているので何をやっても普通にはならない。根本的に変人なので老いても枯れても非常識なまま。決して既存の枠には収まらない。故にファンとしても期待を裏切られることがない。無論“変”であることを望まない方には何の価値も見出せないのでしょうが。

 今回紹介する『Damn! moonriders』は、ムーンライダーズ結成20周年を記念して制作された3枚組CDです。CD-ROM1枚とオーディオCD2枚からなり、2枚のオーディオCDはスタジオ編とライヴ編とに分かれています。

    • スタジオ編

 過去の名曲のデモ音源や未発表曲を集めたレアトラック集です。TR808+TB303+ギターをバックに唄われる超アップテンポな『くれない埠頭』の1st DEMO、アルバム『青空百景』のアウトテイクである白井良明作品『先生パー』など、非常に興味深い仕上がり。ムーンライダーズの長い歴史における音楽性の変遷が俯瞰できます。
 しかしここで最も注目すべきはやはり2作の新曲でしょう。作詞:鈴木博文/作曲:岡田徹のコンビによる『僕の努力』では、穏やかな陽射しの下、早朝の静かな街で一人自分を見つめる男性の姿がゆったりと大らかなサウンドにのせて描かれています。唄うは武川雅寛鈴木慶一ムーンライダーズを支える2大ヴォーカリストのオクターブユニゾンです。アルバム『Bizarre Music For You』のために用意されたこの曲、円熟味溢れる唄と演奏はまさに結成20年目にして辿り付いた境地といえるのではないでしょうか。
 そしてもう1曲、『I am a Robot Santa Claus』は、6人のメンバーがそれぞれ8小節ずつ作詞・作曲・ヴォーカルを担当して出来上がった怪作。これぞまさしくムーンライダーズの真骨頂です。普通はこんなこと、思いついても誰もやりませんよ。
 ラスト2曲はザ・バンドプロコル・ハルムのカヴァー。実験性皆無な手練のロックバンドとしての側面が楽しめます。そんなムーンライダーズも無論、悪い筈がありません。最後の最後に隠しトラックとして1曲入っていますが、これはもう本当にオマケ。手に入れてからのお楽しみということで。

    • ライヴ編

 ムーンライダーズが結成された1976年・郵便貯金会館での演奏から86年の10周年記念ライヴまで、時代の異なる6会場・17曲のパフォーマンスが収録されています。作者かしぶち哲郎自身が唄う『Beep Beep Be オーライ』、コーダの部分で摩訶不思議な展開をみせる『マイ・ネーム・イズ・ジャック』なども聴き所ですが、ここでの白眉は何といっても1980年、ムーンライダーズがニューウェイヴ期に突入した頃の演奏でしょう。武川のヴァイオリンがボブ・マザーズボーのギターのような音色を奏でています。
 サポート・ミュージシャンを必要としない完結したバンド形態で、メンバーチェンジもほとんどないまま30年近く活動を続けるムーンライダーズ。その奇蹟の一端をご堪能ください。

    • CD-ROM編

 レアな映像や写真、音源を多数収録しています。この稿の趣旨から外れるため、これについては字数を割きません。収録曲等についてはこちらをご参照ください。

 上のLinkをクリックした方は既にお気付きかと思いますが、実はこの3枚組CD、残念ながら現在は廃盤です。昨年あたりまでは渋谷HMVに店頭在庫があったのでまめに探せばまだ新品を入手できるかも知れません。もちろん中古でも見かけたら即購入をお奨めします。
 来春、鈴木博文が誕生日を迎えればメンバー全員が50代となるムーンライダーズ。最新作は慶一が音楽を担当するアニメーション映画『東京ゴッドファーザーズ』のエンディングテーマとなる模様です。唄うはなんと、ベートーベンの『第九』!
 老いてなお燃え盛るアウトロー魂。つまりは“DON'T TRUST ANYONE OVER 50”、そういうことなのです。

 では、id:marsonaさんにバトンをお渡しします。40人目!